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京都地方裁判所 平成5年(ワ)583号 判決 1994年4月18日

原告

西村孝彦

右法定代理人親権者母

西村八重子

右訴訟代理人弁護士

出口治男

被告

京都市

右代表者市長

田邊朋之

右訴訟代理人弁護士

南部孝男

主文

一  被告は、原告に対し、金四九万七八七六円及びこれに対する平成元年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。但し、被告が金四九万七八七六円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、五〇〇万円及びこれに対する平成元年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  原告の請求が一部でも認容される場合、担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、昭和五三年八月一日生まれの未成年者であり、平成元年二月二日当時山ノ内小学校四年生であった。

(二) 被告は、京都市立山ノ内小学校(京都市右京区山ノ内山ノ下二二番地所在)の設置者である。

2  事故の発生

平成元年二月二日、原告は、教室内において、給食の時間を終えた後他のクラスメートとともに掃除のため机と椅子を移動させていたところ、教室内に暖房用ガスストーブ(以下「本件ストーブ」という。)のゴムホースに足を取られて体のバランスを崩したが、その際本件ストーブに載せてあった金ダライに触れ、そのため金ダライ内の熱湯を主に右側背部にかぶり、二度の熱傷を負った(以下「本件事故」という。)。

3  責任原因

本件事故の当時、クラス担任である訴外黒田のり子教諭(以下「黒田教諭」という。)が教室にいて掃除指導に当たっていたのであるが、本件ストーブのゴムホースは同ストーブと教室隅のガス配給口とをつないでおり、児童が掃除のため机や椅子を移動させる際にはそれに足をとられることが容易に予測でき、また本件ストーブの上に熱湯の入った金ダライが置かれておれば児童が掃除の際にそれに触れてひっくり返し、熱湯をかぶることも十分予測できたのであるから、黒田教諭としては、掃除作業に入るに際し、本件ストーブのゴムホースを片付けたうえで児童に対し、机や椅子の移動作業をさせるべき義務があったのにその義務を怠り、本件ストーブに熱湯の入った金ダライをおいたまま、また本件ストーブのゴムホースも片付けずストーブとガス配給口とをつないだまま児童に対し移動作業を開始させた過失がある。

4  損害

(一) 本件事故により原告が受けた傷害は、熱湯をかぶった熱湯傷であり、その熱傷深度は二度、受傷の範囲は背部一面であり、体表面積の一五〜一八パーセントに傷害が及んでいるものである。原告は、受傷の二月及び三月の二か月間は相当頻繁に治療を受けており、同じ二度の熱傷でも深皮の深層に及んでいたものと推定される。原告は、受傷後少なくとも受傷した年の夏までは強い痛みとかゆみが続いたものであり、また右の夏以降もかゆみに絶え間なく襲われていたことは明らかである。

この傷害によって、原告の背中には、負傷したあとに薄黒い瘢痕が残っていることから、激しい痛みとかゆみがあったものであり、小学校四年生の子どもにとって重大な傷害であったことは疑いがない。

(二) 通院回数が少ないのは、それに対する有効な治療がないため通院の回数が少なかっただけのことである。右のように見てくると、最低限入院一か月、通院六か月、かつ傷害の程度は重症、さらに本件受傷により登校できなかったことのマイナス面が生じたことは明らかであり、少なくとも小学校四、五、六年生の間の不登校は本件受傷による結果とみるべきである。

(三) 本来生命、身体の安全を十全に保証されるなかで、健全に育てられるべき子どもが被害を受けたというのが学校事故の特質であり、そこにおける損害算定を、交通事故による損害額の算定と同じに考えるべきではない。

(四) 右傷害によって被った精神的苦痛ははかりしれないが、金銭に見積もると金五〇〇万円を下らない。

5  よって、原告は、被告に対し、国家賠償法一条一項による国家賠償請求権に基づき金五〇〇万円及び本件事故発生の日である平成元年二月二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)及び(二)の各事実は認める。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3のうち、本件事故の当時、黒田教諭が教室にいて掃除指導に当たっており、本件ストーブのゴムホースはストーブと教室隅のガス配給口とをつないでいたとの事実は認め、その余は否認する。

(一) 本件ストーブのホースの長さは約六メートル三〇センチであり、本件ストーブを教室の真ん中に置いて若干余裕がある程度の長さになっている。

また、本件ストーブを教室の真ん中に置いていたのは、教室全体が等しく暖かくなるようにとの配慮によるものであって、この点について過失を問うことはできない。

(二) 黒田教諭は、本件ストーブの周りに、ナイロンテープを貼ったり、チョークで印をつけたりして、児童の机が本件ストーブに近づかないように配慮していた。

本件事故発生までは、同種の事故が発生したことはなかった。

(三) 黒田教諭は、日常から、学級指導の時間を利用して、本件ストーブの使用について、安全面での指導をなし、教室に「教室で暴れない。」等の記載のある掲示をしていた。このことは口頭でも児童に注意を与えていた。また、危険だと感じたときには、その都度注意を与えていた。本件ストーブの上の熱湯容器を想定した指導もなしていた。

4  請求原因4の事実は否認する。原告の受傷は背面右半分であったに過ぎない。

(一)(1) 熱傷深度の第二度は、感染が起こらなければ二週間から四週間で治癒するのであり、原告の治療状況からすれば、原告の熱傷は二度のうちでも軽いものであって、深度に及んでいるものではない。

(2) 原告は、受傷後の二か月にたったの八回、すなわち一週間に一度の割合でしか治療を受けておらず、治療費も四回は一〇〇〇円以下の治療費で済んでいるのであるから、大した治療の内容ではないはずである。この二か月の治療費をもって「相当頻繁」と称するのは見当違いであり、傷害の程度は軽微なものと判断せざるを得ない。

また、原告は千本今出川という原告の住所から遠く離れた科学教室や山科の図書館へ自転車で通っていたのであるから、原告の健康状態は良好であったのであって、重症とはいえない。

(3) 原告は、入院中かゆみを訴えている時もあるが、そのかゆみは自制の範囲内であって、それほど強いものではない。三月九日の段階では、原告は寝ころんだりしていたのであり、少なくともこのころには、かゆみがとれていたものと思われる。さらに、三月二四日にはすでにかゆみはないと診断されている。

しかも、原告に残った瘢痕も、黒ずんでいるに過ぎず、色素沈着という程度のものに過ぎない。

(二) 原告の現実の入院期間は一二日間に過ぎない。しかも、事故発生の当日の二月二日当時、すでに原告は、それほど苦痛はなく、比較的元気な状態であり、必ずしも入院の必要性が強かったわけでもなく、始めのうちは大変だから五日ほど入院してはと勧められ、保護者の希望で入院したのである。通院日数も約二年六か月に、たったの八回に過ぎない。

原告が本件受傷により通学できなかった期間は、二月二日から同月一六日である。その後学校へ来なかったのは、「背中のことにしても嘘をつくし、押し売りみたいに学校に来ることを強制するし、そんな生徒のことを思っていない学校に行ったらまた騙されると思ったから」である。原告が登校しなかったのは、単に山ノ内小学校、黒田教諭、教育委員会が嫌いなためであって、受傷が原因で登校できなかったのではない。

(三) 人身事故においては、死傷そのものを損害としてとらえる立場によれば、学校事故によって受けた傷害であろうと交通事故によって受けた傷害であろうと、損害としては同一であって、同様の損害賠償が与えられることが公平であり、学校事故による被害であるからといって、損害額が高くなる理由はない。

三  抗弁(過失相殺及び損害の填補)

1  本件の事故の被害者は、事故当時小学校の四年生であって、損害の発生を避けるのに必要な注意をする能力を有しており、ストーブを避けて机と椅子を後ろに下げられるのに、ホースに机と椅子を引っかけるという「期待される行動のパターンからの逸脱」があった。他の生徒の全てがホースに引っかけずに机と椅子を下げていたことから、被害者の過失は明らかである。

2  原告は、本件事故に関し、日本体育・学校健康センターから、免責の特約を付した災害共済給付契約に基づき金六万二一二四円が支給されている。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は否認する。ストーブの位置、机と椅子の位置からは、ストーブを避けるには机と椅子をかなり大まわりにしなければならないのであるが、そうした行動は他のいずれの児童も当日はしなかったのである。従って、それら他の児童と同じように机と椅子を動かしていた原告に過失などあるはずがないというべきである。

2  抗弁2は認める。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一  当事者及び事故の発生

請求原因1及び2の各事実については争いがない。

第二  責任原因

一  請求原因3のうち、本件事故の際、クラス担任の黒田教諭が教室にいて掃除指導に当たっており、本件ストーブのゴムホースはストーブと教室隅のガス配給口とをつないでいた事実については争いはない。

二  そこで、黒田教諭に過失が存在したか否かについて判断する。

1  成立に争いのない甲第三号証、乙第二号証及び第三号証、証人黒田教諭の証言により真正に成立したと認められる乙第八号証、成立に争いのない乙第一〇号証、検乙第一号証ないし第五号証、証人黒田のり子の証言、原告の本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。

(一) 本件事故の発生した教室の広さは、横約7.2メートル、縦約九メートルであり、そこに三二名もしくはこれを少し越える児童が学んでいた。児童の机は、幅六〇センチメートル、奥行四〇センチメートルで、横に八個が二つずつ組となって四列に並べられ、これらの机が縦に四列ないしそれを少し越える程度並んでいた。但し、原告は、視力の関係で黒板が見えにくかったため、本件事故の数日前から特別に右の児童机の配列の更に前(教壇に向かって右から四番目で最前列の児童机の更に前の位置)に机を置いていた。本件ストーブは、高さ七二センチメートル、横二六センチメートルの四角柱(但し、底の部分は四〇センチメートル四方に広がっている。)であり、前から二列目と三列目の児童机の間でかつ教壇に向かって右から四列目と五列目の児童机の間(教室のほぼ中央部)に位置し、これにガスホースが、教壇に向かって左側の壁の教壇側から約3.5メートルの地点にあるガスコックから本件ストーブのある位置まで、一旦教壇に向かって左から一列乃至四列目の最前列の児童机の前を通ってから四列目と五列目の児童机の間を教室中央部を後方に向かって多少の余裕をもつ程度の長さでつながれていた。ストーブの周囲には金網によるガードは設けられておらず、チョークにより、児童の机及び椅子が接近しないように線を引いていた。(別紙図面参照。但し、ホースの長さは、右図面よりもやや長めであったと認める。)

(二) 本件ストーブ上には、高さ一〇センチメートル、直径二一ないし二六センチメートルの金ダライが置かれ、掃除の時間に使用するために湯を沸かしており、当時湯はタライの中に半分ほどかなり熱い状態で入っていた。

(三) 事故が発生したのは給食の時間が終わった後の、清掃の時間であり、教室の掃除のため児童らが一斉にそれぞれの机と椅子を後ろに下げたところであった。原告は、机と椅子を下げるのが少し遅れており、椅子を机の間に入れたまま、体を後ろ向きにして机の両端を持って引きずって後ろに引いて行ったところ、ストーブのホースに乗り上げて体がストーブの方向に倒れ、ストーブ上にあった金ダライが落ちて熱湯を右背中に浴び、背部に二度の熱傷を負った。

右の事故の当時、担任の黒田教諭は、教室内にいたが、翌日の時間割等を書くため黒板に向かっており、転倒の瞬間は見ていなかった。

2(一) 右事実によれば、本件ストーブのホースは、児童の頻繁に往来する場所を横切る形で伸びており、児童が掃除のため机や椅子を移動させる際にこれに足をとられることは容易に予測できたものと認めることができる。しかも本件ストーブの上には熱湯の入った金ダライが置かれていたところ、本件ストーブは、前記1(一)に認定したとおりの構造であり、床に固定されているわけではないので、本件ストーブ自体が転倒するとまではいかないものの、ホースを引っかける等の衝撃によりストーブ上の金ダライが落ち、中の熱湯がこぼれる可能性も容易に予見できたと認められる。したがって、本件ストーブの周囲に安全柵が設けられていない右の状況のもとでは、担任の教諭としては、児童らに掃除作業を命じるに際し、本件ストーブ、ストーブのゴムホース又は熱湯の入った金ダライをまず別の場所に移した上で、児童に対し、机や椅子の移動作業をさせるべき安全配慮上の注意義務があったところ、同教諭は右義務に違反し、漫然とストーブ上に熱湯の入った金ダライを置いたまま、掃除のための机及び椅子の移動作業を児童らに行わせた過失行為により、本件事故が発生したものと認めることができる。

(二)  被告は、黒田教諭は、日常から、ストーブ使用上の注意に関する指導を行っていたのであるから同教諭に過失はない旨主張し、証人黒田のり子の証言によると、

(1) 山ノ内小学校では、毎月一回、安全指導の時間があり、一二月には「冬の安全」として、ストーブを使う時の注意事項についての指導が行われていたこと、

(2) またストーブの使い方については、ガスストーブが各教室に配られる際に学校側からB四くらいの色画用紙に、気をつける事項として、「教室で暴れない。ガスの元コックとかスイッチをさわらない。燃えるような物を近づけない。」などの注意書が配られ、これは教室に貼られていたこと、

(3) 日々の日常生活でも黒田教諭が危険と認識したときはその都度児童に声をかけていたこと、

(4) 本件ストーブの周りには、児童が近づかないように、チョークで一定範囲の四角を書いたり、ナイロンテープでくくったりしており、チョークが消えたりしたときは、書き足していたこと、

(5) これまで、同小学校では同種の事故が発生したことがないこと、

を認めることができる。

(三) しかしながら、本件事故は、原告が日常の学校指導に違反してストーブ付近で暴れたりふざけたりしたために生じた事案ではなく、机及び椅子の移動という掃除の時間前における日常ごく普通の行為を行っている最中に生じた事案である上、その態様も、ホースに足をひっかけるという成人であっても起こしかねない形で発生したものである。多数の児童が往来する教室の中央部に、熱傷を生じる程の湯の入った金ダライが置かれたストーブが置いてあり、しかも、ガスホースが教室内を横切っているという状況のもとで、教室の清掃活動のため児童らが机・椅子を移動する際には、児童が無意識にこれに足を引っかけ、金ダライの熱湯をかぶる事故が生じることは十分予見可能であると認められ、右事故の発生を未然に防止するため、学校として安全柵を設けるか、又は担任の教諭がストーブの本体、ホース若しくは金ダライを予め移動しておく等の安全配慮義務を被告側に課したとしても特段不合理な義務を被告側に課したものと考えることはできない。

従って、担任の黒田教諭には、本件事故発生について安全配慮義務違反があったものと認めることができる。

第三  損害

一  原告の受傷及び後遺障害について

1  成立に争いのない甲第二号証、第四号証、第七号証ないし第一〇号証によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、本件事故により、右背部から左背部の中央にかけて熱傷二度、背面一五パーセントの熱傷を負い、平成元年二月二日から同月一三日まで京都桂病院に入院し、その後、平成三年八月一六日までに計八回の通院をしている。

(二) 平成元年二月二日の入院時、背部の熱傷部分の水泡はほとんど破れている状態であった(甲七、二丁表)が、二月一〇日にほぼこれが上皮化し(甲七、三丁表)、同一一日には、創部よりの浸出液がみられない状態となり(甲八、六丁表)、同一三日に退院に至っている。

(三) 右退院後、原告は通院しているが、同年二月一五日の通院時、患部は、ほぼ上皮化したものの一部びらんがみられ、かゆみがあった。同一六日には軽度のかゆみが認められた。同二二日は一部びらんがみられ、イソジン液等による処方がされている。しかし、同年三月三日以降、同月二四日、同月二八日、同年七月一四日、平成三年八月一六日と計五回通院しているが特段の処置が行われた記録がない。(甲九、二丁裏及び三丁表)

(四) 平成三年八月一六日に原告が受診した際の診断によると、「やや色素沈着あり、しかし、機能的には問題なし。」とされている。

2  原告は、本人尋問において、「平成元年七月以降は痛みはなかったが、かゆみはあった。傷を掻くと水膨れが破れて傷が悪化するので掻けなかった。事故後一年半は熟睡ができない状態であった。」旨供述しているが、右1において認定した事実に照らし、採用できない。

3  右1において認定した事実を前提とすると、原告の熱傷の治療に要した日数は、入院一三日、通院期間は退院後、平成元年三月三日の通院までの一八日間(四回分)であると認めるべきである。

二  事故後の学校側の対応について

原告は、本人尋問において、原告が学校に行かない理由として「(学校側が)嘘をつくし、押し売りみたいに学校に来ることを強制するし、そんな生徒のことを思っていない学校に行ったら又騙されると思ったからです。」と、原告が本件事故後、一五歳に至るまで小学校及び中学校に通学しなかった理由が学校及び教育委員会側の不誠実な対応にある旨供述している。

しかしながら、証人黒田のり子の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一号証、第四号証の三、第五号証の一、第九号証、成立に争いのない乙第一七号証によると、黒田のり子教諭を初め山ノ内小学校・京都市教育委員会側は、何度も原告を見舞うとともに、入院により勉強の遅れが出ないように原告のもとへプリントを届けるなど可能な限りの対応をしており、また、退院後は、一日も早く学校へ原告が復帰することを願って説得を続けていたことを認めることができる。

そうすると、本件事故に関する学校側の対応には、特に不法行為を構成すべき行為も、また、慰謝料金額に影響を与えるような不信行為があったものとも認めることはできない。

三  慰謝料金額

右一3において認定した事実に、本件事故が、本来安全であるべき学校の教室内で発生したものであること、原告が本件受傷時小学校四年生であったこと、本件傷害が熱傷であり、通常の交通事故による傷害と異なり治療行為自体が終了した後も引き続き患部全体にわたりかゆみ等の不快感が長期間継続せざるを得ないものであること、現時点では後遺症は認められないが、完治するまでの期間、背部の熱傷痕を表に出せず、入浴や水泳の際などに不便な思いをせざるを得なかったこと(成立に争いのない甲第一〇号証)等の事情を考慮すると、本件事故により生じた原告の精神的苦痛を慰謝するには七〇万円をもってするのが相当である。

四  過失相殺

右第一、二において認定した事実経過のもとでは、原告に本件事故の発生につき、二割の過失が存在したものと認めるべきである。

五  損益相殺

本件事故に関し、原告が日本体育・学校健康センターから六万二一二四円を受け取っていることについては、当事者間に争いはない。

六  まとめ

以上、原告の受けた損害額七〇万円に対し、過失相殺によりその損害額の二割を減じ、本件事故により原告の受け取った金六万二一二四円を控除すると、原告の損害額は、四九万七八七六円となる。

第四  結論

よって、原告の被告に対する本訴請求は、四九万七八七六円及びこれに対する不法行為の日である平成元年二月二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の限度で理由があるからこれを認容し、原告のその余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、仮執行免脱宣言について同条三項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官鬼澤友直)

別紙<省略>

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